マンション建て替えのための第2段階である建替え構想の検討を行う「検討段階」が終了すると、第3段階である「計画段階」に入ります。
計画段階では、管理組合の総会で「建替え決議」に向けた検討を推進することが決議されたのを受け、建替え 決議に向けて建替え計画の検討を行う計画組織である「建替え計画委員会」等を設置します。
計画組織の目標
建替え計画組織は、建替え決議の成立に向けて、区分所有者間の合意形成を図るための様々な活動を推進していきます。
区分所有者の意向把握を繰り返しながら、建替え計画を策定し、それに基づいて建替え決議を成立させることが最終的な目標です。
専門家及び事業協力者の選定
建替え決議に向けて、合意形成を進めていくためには、建替え計画の作成や事業性の評価試算、区分所有者の個別状況への対応、行政や近隣住民との協議などの様々な手続きが必要となります。
このため、専門的な知識や経験を持つ専門家のコンサルタントとしての関与が必要不可欠と考えられます。
計画組織が設置されると、まずは専門家の選定作業にとりかかります。
専門家のリストアップの中から、最も適切な相手を選定し、業務を委託するという形になります。
選定条件を事前に決めておき、公開性・透明性のある手続きで選定することが一層重要になります。
また、建替え後に保留床が生まれる可能性がある計画の場合は、建替えの事業計画の検討を重ねる過程で保留床の販売力を有する事業協力者(デベロッパー)を選定してその協力を求める必要があります。
専門家の協力を得ながら適切な手続きで事業協力者を選定する必要があります。
建替え計画の検討と意見交換による計画の調整・修正
建替え計画案を区分所有者の意向により合ったものとし、その理解と同意を得るためには、事前に把握した個々の区分所有者の要望をできるだけ反映した計画を作成していきます。
その上で、その計画内容について区分所有者全員で意見交換を行い、計画の調整や修正を繰り返し行っていくことが必要となります。
資金負担の軽減
区分所有者にとって最も強い関心事であり、また、建替えの合意形成を困難にしかねない最大の要因は、建替え費用の負担に関する問題といえます。
事業条件が厳しく、費用負担が大きな問題になるような場合、専門家に多様な対策を提案してもらうよう働きかけることが大切になります。
費用負担を軽減する様々な方法の検討や、各種の容積率の割増制度、補助制度、融資制度等の適用可能性についての検討を行うことが重要になります。
専門家から情報提供を受けて一緒に検討します。
非賛成者等への対応
建替え決議の成立に向けて、建替え計画を練り上げながら合意形成を進めるためには、非賛成者への対応が必要となります。
合意が得られていない区分所有者に対しては、賛成できない理由や事情を正確に把握します。
賛成できない要因となっている問題に対しては、様々な可能性を検討したり、それが建築計画や事業計画の中で解決することが可能かどうか十分な検討を行い、できる限り多くの方が参加できるような計画とすることが大切になってきます。
非賛成者が存在する場合は、賛成者と非賛成者との間で感情的な対立が生じたり、あるいは消極的な賛成者が同調して反対に回ってしまうようなことがないよう十分な配慮が必要です。
建替えは区分所有者全員が協調しながら、主体的に「良好なすまい」を作り出す共同作業であるという意識を持ってもらうような働きかけが望まれます。
関係地方公共団体及び近隣住民との協議
建替え計画を検討するにあたっては、地方公共団体に対して、補助金や規制誘導制度などの関連制度適用や開発指導要綱についての協議が必要となる場合があります。
また、近隣住民への対応が必要となりますが、地方公共団体が近隣対策に関する指導要綱を設けている場合もあります。
建替えにより高層化する場合の日照・眺望、電波障害や工事車両の通行による騒音等に関して近隣住民への対応も必要となります。
建替え決議
建替え計画の内容がほぼ固まり、それに対する区分所有者の理解も可能な限り最大限に得られた段階で、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成により、区分所有法に基づく建替え決議を行い、建替え事業を実施するプロセスへと進むこととなります。
建替え決議に至る手続きや建替え決議時に向けて準備すべき資料については、区分所有法に定められています。
建替え決議は、それが成立することにより、建替え事業に円滑に着手することができるために、建替えに参加しない区分所有者の区分所有権と敷地利用権とを時価をもって売り渡すよう請求する権利を建替え参加者側に認めています。
建替え決議に反対した人は、決議成立後に再度、建替えに参加するかどうかの意志決定をする機会がありますが、その段階で反対した場合は「建替え事業に参加しない者」として扱われ、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡して転出しなければなりません。
このようにして、全ての区分所有権及び敷地利用権を建替え参加者に帰属させることにより、建替え参加者のみで建替えを円滑に実施することができるようになっています。
建替え決議の意義とその後の手続きについて、区分所有者全員に周知徹底を図ることが 大切です。
建替え決議の集会に至る手順
建替え決議の実施を目的とする集会を招集するときは、当該集会の開催日の2ヶ月前までに招集通知を発する必要があります。
この期間は、規約により伸長することができますが、短縮することはできません。
建替え決議以外の事項を議事とする集会の招集通知の発出期間は1週間前までですから、時期が全く異なりますから注意が必要です。
招集通知には、会議の目的たる事項(「建替え決議について」という旨)と議案の要領(建替え決議で定めるべき事項を示すほか、以下の事項も定めて示さなければならな いとされています。
◆建物の効用の維持又は回復をするのに要する費用 の額及びその内訳
◆建物の修繕に関する計画が定められているときは、当該計画の内容
◆建物につき修繕積立金として積み立てられている金額
さらに、建替え決議の実施を目的とする集会の招集者は、当該集会の開催日の1ヶ月前までに、集会の招集通知に記載される上記の通知事項についての説明会を開催しなければならないとされています。
また、事前に建替えの場合と修繕・改修により建物の効用の維持又は回復をする場合との所要費用と改善効果等を比較した結果を示し、建替えを必要とする理由等を明確にすることが必要です。
建替え決議で定めるべき事項
区分所有法に基づく建替え決議においては、建替え計画の概要として次の4つの事項を定めなければなりません。
1.新たに建築する建物(以下「再建建物」という。)の設計の概要
2.建物の取り壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額
3.上記に規定する費用の分担に関する事項
4.再建建物の区分所有者の帰属に関する事項
マンションの建替えは、以上見てきたように大変長い道のりになります。
分譲マンションの戸数は、平成30年末時点で650万戸を超えています。
国勢調査による1世帯当たり平均人員2.33をかけると、約1,525万人が居住している推計となり、これは国民の約1割にあたる方々が居住していることになります。
この内、旧耐震基準のマンション数は104万戸に上ります。
平成25年時点で、建替えマンション数は183件で、戸数で約14,000戸に留まるという状況です。
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