賃借人は、平成25年2月に賃貸人から東京都内のマンション1室を月額79,000円、敷金79,000円で賃借した。
本契約には、以下の特約が付されていました。
- 明渡後の室内及びエアコンクリーニングは特段の定めがない限り、賃借人の費用負担により行う。
- 賃借人の故意・過失による物件内の設備及び備品等の破損または故障や、クロス、カーペット、フローリング、クッションフロア、畳、ふすま、障子等の自然損耗ではない汚損・破損においては、賃借人の負担とし、部分または全面張替えを行うものとする。
平成26年12月、本件賃貸借契約は賃借人の解約申し入れにより終了し、同日建物を明け渡した。
賃貸人の訴訟提起
賃貸人は、本件契約期間中に、本件建物内の壁、ドア、収納扉、ユニットバス、化粧台の各所に穴、キズ等の通常の使用方法では生じ得ない破損又は故障を生じさせ、また喫煙等により本件建物内の壁のクロス等をヤニで変色させ、臭いを付着させるなど自然損耗ではない汚損を生じさせたと主張した。
賃貸期間中の本件建物の損傷・汚損等が生じた部分を回復・補修等するための費用として452,520円を見積もった。
賃貸人は、平成27年1月、賃借人に対し、原状回復費用について敷金79,000円を控除した残額373,520円を請求したが、賃借人からは平成27年4月に10万円の支払があっただけのため、賃借人に対し27万3520円を請求する訴訟を提起しました。
賃借人の反論
賃借人は、原状回復特約については認めるものの、喫煙によるヤニ汚れは入居前から存在ており、また収納扉の作り替えや化粧台の交換費用は高額すぎると反論しました。
裁判所の判断(東京地裁判決)
裁判所は、賃貸人の請求の内、諸経費5万円を除いた22万3520円を認めました。
各損害額について
1.天井及び壁クリーニング
いずれもヤニ汚れを除去するための費用であり、自然損耗でない汚損と認められるから、賃借人に支払いの義務がある。
エアコン洗浄および室内クリーニングについては、特約に基づく支払義務がある。
2.壁の穴
壁に穴が開いており少なくとも過失による破損であると認められるから、賃借人に支払い義務がある。
3.収納扉の作り替え
証拠によれば破損しており、少なくとも過失による破損であると認められるから、賃借人に支払い義務がある。
金額としても不相応とは認められない。
4.壁クロスの張り替え
ヤニ汚れによる汚損であり、自然損耗ではない汚損と認められる。
汚損の内容に照らし、数量的、場所的な限定は不可能であり、金額を相当と認める。
5.発生材処分費
少なくとも過失による破損の結果、損傷部分を交換し、不要になった物であるので、処分費として相当と認める。
6.化粧鏡の交換
証拠によれば破損が認められ、賃借人が賃借開始後に一度落下したとの事であり、その他入居時点ですでに不具合があり、破損が不可抗力であったと認めるに足りる証拠はない。
賃借人は化粧棚のみ交換することで足りると主張し、より安い金額で交換が可能との証拠を提出しているが、化粧台と化粧鏡はセットで交換しなければならなかったと認定され、修繕は同種同等のものとすべきであり、金額を相当と認める。
7.諸経費
現場監督費とのことであるが、必要性を認めるに足りる証拠はないから、費用としては認められない。
賃借人が主張するより安い見積書について
同見積書は、作成者が実際に本件建物を検分して作成したものではなく、同見積書の存在により直ちに賃貸人の主張する費用額が不相当であるとはいえない。
賃借人は、善良な管理者として注意を払って賃貸物件を使用する義務を負っています。
明け渡しの時になって、とんでもない原状回復費を請求されることのないようにしましょう。
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